東洋医療についての一問一答

はじめに

私ども「NPO法人 東洋医療を考える会」は、患者と施術者(鍼灸師・あん摩指圧マッサージ師)が一緒になり、東洋医療の普及のため活動する会です。
多くの方に東洋医療の効果を知ってもらい、活用していただきたい。そして、西洋医療だけでなく東洋医療が有効な病状については、健康保険証を示して受診できるように保険制度を改正したい。さらに、各病院に東洋医療も組み込んで、医師にも治療家にも診てもらえるようにしたい、等等夢は尽きません。
東洋医療の普及のためには、まず、漢方・はり・灸・あん摩・指圧などの治療が健康保険で受けられる様にしなければなりません。東洋医療に関するいろいろな疑問にお答えするとともに、健康保険制度改正にご協力をお願いすることを目的にこの小冊子を作成いたしました。
ご質問やご意見を気軽にお寄せくださるようお願いいたします。どのような医療を受けるのか、患者がそれを選べるようにするのが医療の世界的な流れだと考えますが、私たちの医療もこの流れに沿い少しでも進めればと思います。
* 「東洋医療」の範囲には漢方薬・はり・灸・あん摩・養生など幅広く含まれます。ここでは健康保険から排除されているはり・灸治療・あん摩・マッサージ・指圧治療を主として書かれています。

平成24年9月15日
NPO法人東洋医療を考える会
「東洋医療についての1問1答」 編集委員会

東洋医療が注目されていますがどうしてでしょうか?

東洋医療への注目
東洋医療が注目されるのは、西洋医療だけでは十分な対応がむずかしい病状が広がり、東洋医療も利用しようという声が大きくなっているためです。また、身体を悪くしてからの治療だけではなく、病気の予防が大切である事が再認識され、病気にかかりにくい身体づくりを医療の基本としている東洋医療医学が注目されているのです。

西洋医療が苦労している病状は、個人の体質に関わるアレルギー疾患や、老化とともに進む癌などの慢性疾患、さらに、うつ病などこころの病気です。このような病状の改善に、各個人の自然治癒力を強化する東洋医療の治療が効果をもたらすことが理解されてきました。また、薬の使い過ぎの副作用を懸念し、東洋医療による治療を選ぶ人も増えています。さらに、高齢化が進むなか病気の予防、老化の予防こそ大切という考え方が定着してきましたが、この考え方は東洋医療の基本です。「未病を治す」というように病状の芽生えを見つけ出し、病気にかかりにくい身体づくりをめざすのが東洋医療です。

緊急時の対応や感染症対策、科学の発展とともに広がる難病対策など、西洋医療の大きな役割とともに、各個人の体質改善を目指す東洋医療の治療や生活改善の知識が重要な医療の一面であり、高齢化社会の医療や介護の充実のために必要とされているのです。

 「『喘息がひどく、薬で一時的に発作は止まるが基本的な治療にはなっていない』『高血圧で毎日何種類もの薬を飲んでいるが、いっこうによくならない』『がんの摘出手術をしたが他へ転移してしまい、辛い抗ガン剤治療をおこなっている』という声をよく聞きます。さらには、アレルギー性皮膚炎や花粉症、がん、関節リウマチや自己免疫疾患など『難病』を抱えた患者さんたちも同様でしょう。今日蔓延するようになったこれらの病気に対して、西洋医学ではいまだに治療へと導く根本的な治療法が確立していません。確かにある治療法が有効性を発揮する場合もありますが、まったく効かない人もいれば、副作用が大きすぎて使えない場合もあります。つまり、西洋医学には素晴らしい面もありますが、はっきりとした欠陥もあることが知られるようになったのです。もちろん東洋医学も同様に、両方の面を持っています。ですから、東洋医学と西洋医学の長所、短所をしっかりとわきまえ、お互いの長所を掛け合わせ、短所を補い合っていくことが、より効果的な医療の実現につながるということです。」
谷美智士医師の著書「未病革命」より発行所株式会社アスコム

東洋医療と西洋医療はどのような違いがあるのですか?

東洋医療の特徴
東洋医療の特徴は、それぞれ身体に備わった自然治癒力を高めて、自らが本来もっている力を高めて病気の克服を目指す医療です。各自の身体に備わった自然治癒力を高める手段が、「漢方薬」「はり灸」「あん摩マッサージ指圧」による治療であり、「養生」といわれる生活改善の知識です。

『未病(*1)を治す』というように、身体に現れた小さな変動を見逃さずに対応し、深刻な病状へ進むのを各自の自然治癒力の強化(体質改善)により防ごうという考え方です。また、『病は気から』『心身一如』というように、こころ、精神状態と健康の関連を大切にします。こころの安定が、自然治癒力強化につながり病気を予防します。 

西洋医療の特徴
西洋医療の考え方は、身体の異常を引き起こす原因を探し出し排除することが治療であり、排除の手段が化学薬品であり手術などです。

感染症対策では、抗生物質やワクチンの発見で大きな成果を収めましたし、緊急時の手術など大きな力を発揮する医療です。しかし、臓器から細胞へ、細胞から遺伝子へ、西洋医学の身体の理解も病状の究明も道半ばであり、今後の研究を待たなければならない問題が多いのが実情です。また、薬や手術に頼りすぎるために過剰な医療との批判も出ています。

 アメリカでは鍼治療など代替医療を積極的に取り入れています。その推進者の一人であるアリゾナ大学医学校のアンドルー・ワイル医学博士は次のように述べています。
「西洋において、科学的医学の中心となる課題は病気の外的因子の正体を解明し、それを叩く武器を開発することにあった。今世紀半ばの輝かしい成果は抗生物質の発見である。おかげで医師は細菌によって起こる感染症との戦いに偉大な勝利をおさめた。」「東洋、とくに中国では、医学の課題は西洋とはまったく異なる。中国医学は病気に対する内部の抵抗力を高める方法を探究してきた。どんなに有害な影響を被っても健康でいられるだけの抵抗力をつけること、中国医学の医師たちはその探究のなかで、からだに対して強壮作用をもつ数々の天然物質を発見してきた。西医学もかなりの年月、我々に役立ってはきたが、長期にわたる実用性という点で東洋医学の偉大さにはとうてい及ぶべくもない。」「つぎのルールを知っておいてほしい。現代医学に治せない病気を現代医学の医師にみせるべからず。現代医学が得意とする病気で代替療法の治療家をたよるべからず。」(アンドルー・ワイル著 上野圭一訳「癒すこころ、治る力」角川書店より)

未病…半健康・半病気状態、あるいは健康と病気の中間の概念。約2000年前、中国・後漢時代の医学書『黄帝内経(こうていだいけい)』に「未病の時期に治すのが聖人(名医)」といった記述がある。江戸時代の貝原益軒(かいばらえきけん)の著『養生訓(ようじょうくん)』にも、病が未だ起こらない状態で、養生が必要だが、そのまま放置しておけば大病になると書かれている。 (yahoo百科事典より)

はり・灸やあん摩・マッサージ・指圧の治療効果は?

はり・灸治療の効果
日頃から身体が弱く風邪を引き易いとか、疲れやすいなどの症状に悩む方は、鍼灸治療を受けていると血行がよくなり免疫力がアップして体調が改善します。また、いろいろな精神的ストレスにより、胃痛や胃のもたれ、あるいは下痢や便秘など症状を繰り返す方は、鍼灸治療により改善が可能です。
さらに、更年期の頭痛、頭重感、目まいなどは、鍼灸治療で足の方に気を降ろすと直ります。また、むくみ、湿しんなどは、尿の出を良くすると改善します。神経痛といわれる原因不明の腰痛などの関節痛や頭痛、片頭痛の治療にも大きな効果を発揮します。
「はりの刺激」や「もぐさを燃やした熱刺激」により、いわゆる「ツボ」という身体の急所を適度に刺激することで気血(きけつ)の調和を整える治療です。自然治癒力を活発にし、免疫力を高めて病状を改善する、あるいは病気になりにくい体作りをすることを最も得意とします。

あん摩・マッサージ・指圧治療の効果
頭が痛い、肩がこる、腰が痛む、お腹がもたれるなど日常現れるいろいろな症状に対応して体調を整えます。『未病を治す』というように、からだに現れた小さな変動を見逃さずに対応し、健康状態を維持、回復し、深刻な病状を防ぐことができます。誰でも安心して受けられる治療であり、あらゆる病状に他の治療と合わせて広く活用出来る治療方法です。
手の指や手のひらなどを用いて「経絡」「ツボ」を刺激し、気血の調和をはかり病状を改善する治療方法です。伝統医療のあん摩などの治療方法を伝える「按腹図解」によると、「導引按腹の術」「利関の術」「調摩術」など治療技術が明らかにされています。
按腹の術は腹部のあん摩やマッサージの方法、利関の術は上肢、下肢関節の運動療法、調摩術は身体各部のあん摩やマッサージの治療方法が明らかにされており、体調改善に子供から年寄りまでひろく活用されていました。
体調の悪化を防ぐ便利な治療法であり、マッサージやリハビリ、整体などのいろいろの名称で普及していますが、治療を受けるときには治療者の資格の確認が重要です。

  一九九六年にWHOは「鍼治療の適応疾患リスト・草案」として以下の三七疾患を明らかにしています。

・アルコール中毒 ・アレルギー疾患 
・スポーツ障害 ・ベル麻痺 ・胆道疝痛 
・気管支喘息 ・心臓神経症 ・頸椎症 
・ 運動器系の慢性疼痛 ・うつ病 
・薬物中毒 
・ 月経困難症 ・頭痛 
・ 片麻痺とその後遺症 
・ 帯状疱疹 ・高血圧症 ・低血圧症
・ 勃起障害 分娩誘導 ・不眠症 
・ 白血球減少症 ・腰痛 ・片頭痛 
・つわり ・悪心・嘔吐 
・肩関節周囲炎 ・術後疼痛 
・月経前緊張症 ・神経根性疼痛症候群
・腎性疼痛 ・関節リウマチ 
・捻挫 ・顎関節症 ・緊張型疼痛 
・タバコ中毒 
・三叉神経痛 ・尿道結石

国民医療費のなかでのはり・灸、マッサージ治療の占める割合
厚生労働省の資料によると、平成22年度の医療費37兆4千億円のなかで、はり・灸治療費は317億円で約0.085%、マッサージ治療は517億円で約0.138%です。医療としてほとんど活用していない実態を示しています。

はり・灸治療効果の科学的根拠はあるのでしょうか?

漢方薬もはり・灸治療も、千年・二千年という歴史的な国民の医療体験により効果が実証されている医療です。
科学的解明が大切ですが、科学的解明はその時の科学の発展水準に関わることであり、生命について、身体の仕組みについて、まだまだ解明できないことがたくさんあるのが実際の姿です。漢方薬やはり・灸治療の効果の〝現代医学的解明〟もいろいろな研究のなかで一歩一歩と前進し、解明に繋がると思われる結果も明らかにされてきています。

  1. 身体には危険信号の発痛物質と痛みを抑える鎮痛物質があります。鍼のひびき(得気)や灸の熱感の刺激は、脳の下垂体や腎臓の上に乗っている副腎皮質に伝達されます。
    そうすると「エンドルフィン」という麻薬様物質の分泌が促進されて、痛みを抑制したり、疲れた身体を元の元気な身体に戻してくれます。その結果、血行改善作用、消炎作用、自律神経調整作用などの効果が得られるわけです。(NHKきょうの健康1991年2月)セイリン化成(株)提供
  2. 今回、米ロチェスター大学医療センター神経外科学教授のMaiken Nadergaards氏らの行った研究によって、末梢性の鎮痛作用の存在が明らかになりました。同氏らのグループは、「足三里」というツボに相当するマウスの部位に対して鍼治療を行ったところ、その周囲にアデノシンと呼ばれる物質が増えてくることを発見しました。
    そしてこの物質が神経伝達に関わることから、実際に人為的に慢性痛をおこさせたマウスを使って、アデノシンが確かにはり治療による慢性痛緩和の原因物質であることを証明しました。(2010年06月16日 サイエンス最前線~医薬 はり治療に科学のメス)
    また、最近の研究では病気の予防や治療について、身体の防衛システムである免疫機能の研究が重視されています。身体の組織や細胞の異常に着目するだけでなく、病気の根本的な問題は免疫、体の防衛システムの異常にあるという研究です。
    その免疫機能の研究の中で、「免疫機能と食べ物」や「免疫機能とこころ」などの役割が明らかにされてきています。免疫力=自然治癒力とはり・灸の関係も現代医学的解明が必ずされるだろうと考えます。

はり・灸治療は安全ですか

はり治療による病気の感染は大丈夫でしょうか
はり療を行う国家資格があり、保健所へ施術の届出をきちんと行っている治療院ならばはりからの感染は、問題はありません。治療を行うには高圧蒸気滅菌による鍼の消毒が義務付けられており、希望すればディスポ鍼(*5)の使用も普及しています

はり治療は日本で独自の発展を遂げ、診断方法の知識とともに治療用具の改善も進みました。日本人のからだに合わせて、はりはより細い短いものが多用されるようになりましたし、鍼管というはりを無痛で刺入する道具も日本で生まれました。また、幼児の治療にははりを直接ささず、皮膚を摩擦する小児鍼も普及し、効果を上げるようになったのです。 

灸治療、お灸の跡はどうなるのでしょうか
お灸もいろいろあります。本来のお灸はもぐさで肌を焦がすため、小さな灸の跡ができます。灸は小豆つぶ程度の小さな灸跡になるものですが、変色した跡も治癒して消えていきます。ただ、健康のため同じ「ツボ」へ灸をすえ続ける場合は小さな跡が残ります。
現在は、皮膚を直接焼かないで、熱刺激をあたえるように作られた温灸に人気があり利用されています。

灸治療ですが、俳句で有名な芭蕉も三里の灸をすえつつ、みちのくを旅しました。くすり、くすりとなんでも薬に頼るようになる以前、戦前までは手軽に自分でできる治療方として普及していました。戦前まではやけどの跡が残るような、大きな灸を背中にすえている人もよく見かけたものでした。灸に使用されるもぐさ(艾)は、ヨモギの葉の裏にある繊毛だけを精製し集めたものです。
胃腸機能の調子を整え健康を維持する足の三里、呼吸機能を整えて風邪を予防する手の三里、また、女性の体調を整える三陰交など、手足の「ツボ」の灸は自分でできるので便利です。「ツボ」への軽微な刺激により病状を改善するはり・灸治療は、漢方薬治療はもちろん西洋医療の治療とも合わせて利用できる安心・安全な治療方法です。
(*5) ディスポ鍼…使い捨てのはり。品質も良くなり普及しています。

健康保険で受診できるのですか?

はり・灸治療は ?
「神経痛」「リウマチ」「頚腕症候群」「五十肩」「腰痛」「頚椎捻挫後遺症」等の主として6つの病名で、医師から同意書の提出を受ければ健康保険による治療が可能です。
しかし、治療を認めるのは主として6つの疾患だけですから、患者がはり・灸治療を必要と考えても受診できない場合の方が多いのです。

しかも、政府が決めている健康保険から支払われる治療費は1回1200円から1,600円程度という、実際の治療費とはかけ離れた低額料金に定められていますから、健康保険だけでの治療では採算に合わないので、健康保険での治療はできない、という鍼灸師も多いのです。
政府は、東洋医療は非科学的なものとして医療制度から排除した明治政府の考え方を未だに変えていません。そのために、はり・灸治療は健康保険で受診する医療として認めていませんので、「医師の治療手段のない場合」に限り、はり・灸治療を受診した場合に政府が決めた治療費を支給するというやり方がとられています。
「医師の治療手段のない場合」など実際にはありえません。ところが、厚生労働省の行政指導により「神経痛」「リウマチ」「頚腕症候群」「五十肩」「腰痛」「頚椎捻挫後遺症」等の主として6つの病名で医師が同意書を提出した場合には、「医師の治療手段のない場合」として治療費を支給するというやりかたです。
国民には理解できない行政指導です。そのため、医師から同意書を交付してもらいたいと思っても、同意書の存在を知らない医師も多く、発行しないと断る医師も多いのが実情です。
患者が希望する治療を、何のために不合理な制限をするのか理解に苦しみます。他の医療と差別することなく、健康保険証を示せば誰でもはり・灸治療を受診できるように改めるべきではないでしょうか。

あん摩・マッサージ・指圧治療は?
手足の麻痺や関節の動きが悪くなる症状があり、医師がマッサージ治療を必要と認める同意書を発行した場合には、政府が決めた治療費が支給されますから、健康保険によるマッサージ治療が可能です。
しかし、関節の動きの悪化や麻痺状態の改善以外ではマッサージの治療を認めていません。いろいろな体調の変調を調整し健康を維持する治療としての利用は認めないため、受診は非常に限られています。

政府はあん摩マッサージ指圧師の治療は健康保険で受診する医療として認めていません。医師がマッサージ治療を必要と認め同意書を発行した場合にのみ、政府が決めた低額の治療費を支払うという取扱です。
政府が決めている治療費は1回260円~1300円という、実際のマッサージ治療費とはかけ離れた低額料金と定められていますので、この料金では生活できないため健康保険による治療はできないという施術者からの意見もよく聞かれます。
マッサージ治療の療養費は、治療費とともに、往療費が往療の距離により1,860円~4,260円まで支給されるために、寝たきり状態の方や障害を持つ高齢者に往療の治療が少し普及してきました。在宅で療養する高齢者や身体障害のある方々の病状改善、健康維持にもっとひろく活用できる治療法です。

 同意書とはなんでしょう同意書とは、健康保険によりはり灸・あん摩マッサージ指圧治療を受診する際に、医師から発行してもらう必要があると厚生労働省が規定し、書式を示している文書です。
はり・灸治療の同意書は「神経痛」「リウマチ」「頚腕症候群」「五十肩」「腰痛」「頚椎捻挫後遺症」等の6疾患であることを診断した文書です。
マッサージ治療に対しては「麻痺」「拘縮」などの症状改善の治療として、治療が必要かどうかまた、往診治療が必要かどうかを医師の判断で認めることとしています。この医師の判断を示す文書が同意書です。
 しかし、同意書の存在を知らない医師も多く、はり・灸治療について理解がないなどの理由で同意書を発行しない医師も沢山います。結果、患者は同意書がもらえないために受診が困難という事も多々あり、患者にとって手間も費用も重くのしかかります。
はり灸・あん摩マッサージ指圧治療を体験し、治療効果を身体で理解している者から見ると、同意書というような文書は必要ないものです。東洋医療は国民が体験を積み重ねてきた自国の医療です。患者が必要な医療を自分で選ぶことを認めないやり方はおかしいと思います。

医療の資格と健康保険による治療はどうなっているの?

整骨院では健康保険でマッサージ治療が受けられるのに、
なぜマッサージ治療院では受けられないのでしょう?

自費による治療は別にして、整骨院でもマッサージ治療院でも、健康保険によるマッサージ治療をうけるには医師の同意書が必要です。同意書なしで健康保険による治療を行ったのならば、何かごまかしがあるか、あるいは不正があると考えられます。
健康保険によるマッサージ治療は、関節の拘縮および四肢の麻痺の治療に限り、医師がマッサージ治療を必要と認めた同意書を発行した場合は、政府が決めた治療費を支給するというやり方がとられています。
整骨院を開業する医療資格者は柔道整復師です。柔道整復師は打撲や捻挫という急性疾患だけを取り扱う資格であり、整復、固定、後療法という治療を行うことができるとされている資格です。
ところが、この後療法として柔整マッサージが行える、という解釈で治療が行われているようです。後療法とはなんでしょうか?あん摩マッサージ指圧師がおこなうマッサージと柔整マッサージのちがいはあるのでしょうか? 
医療を選ぶ国民が理解できない制度の運用が放置されており早急な改善が必要です。

 資格あん摩マッサージ指圧師
柔道整復師
治療院の名称○○治療院
○○マッサージ治療院等
○○整骨院
○○接骨院等
認められている施術あん摩、マッサージ、
指圧などの手技による治療および関節の運動療法など
整復、固定、後療法。現在は打撲、捻挫、挫傷の治療が認められている
健康保険による取扱い手足に麻痺および関節の動きが悪くなる症状があり、医師が同意書を発行した場合に受診できる。 病院や診療所と同じように保険証を提示すれば受診できる。患者の病状が施術の対象かどうかは、施術者が診断する。

鍼灸柔整の治療院では医師の同意書無しで、健康保険による「はり・灸治療」を受診できるようです。どうして、はり・灸治療院ではだめなのでしょうか?

自費による治療は別として、鍼灸治療院でも鍼灸柔整治療院でも健康保険によるはり・灸治療を受診するためには、医師の同意書が必要です。
健康保険によるはり灸治療は、「神経痛」「リウマチ」「頚腕症候群」「五十肩」「腰痛」「頚椎捻挫後遺症」等の、主として6つの病名で医師が同意書を提出した場合にだけは、国が決めた治療費を支給するというやり方がとられているのです。同意書なしで健康保険によるはり治療ができるというのは、何かごまかしやあるいは不正があると考えざるを得ません。現状では、医師の同意書なしには健康保険によるはり・灸治療は受診できません。

はり・灸治療、マッサージ治療などを健康保険で患者が選べるようにするにはどうしたらよいのでしょうか?

健康保険法の改善
政府の東洋医療排除の医療行政を止めて、患者が必要とする場合には、他の医療と同じように健康保険証を示して鍼灸師・あん摩マッサージ指圧師の治療を患者が選べるように健康保険制度の改善が急がれます。

政府は、明治政府からはじまった、東洋医療は非科学的で医療制度から排除するという考え方を未だに変えていません。そのために、はり・灸治療は健康保険で受診する医療として認めず、例外的に「医師の治療手段のない場合」に限り、はり・灸治療の受診に対し政府が決めた低額の治療費を支給するというやり方がとられています。
高齢化社会の医療充実のために東洋医療が再評価されている時代であり、東洋医療は医療制度から排除の基本を改めるべきです。
韓国は西洋医学の医師とともに韓医師を養成することにより自国の伝統医療を育成し、中国は西洋医学の医師とともに、中医師の養成により、自国の伝統医療を育成しています。長い歴史の中で生まれ育った自国の医療を排除し、放置する日本の医療行政は異常です。
内科として優れた内容をもつ民族の財産を、正しく評価し積極的な活用をすすめる事が必要であり、漢方、はり・灸、あん摩・マッサージ・指圧治療を健康保険で受診できるように制度を変えましょう。

健康保険法の運用の改善でも受診しやすくできます。
根本的な制度の改正がのぞましいのですが、それを待たずとも厚生労働省の行政指導を変更すれば、健康保険で受診できるようになります。

政府は、健康保険では特別の場合にのみ利用する医療として、鍼灸師、あん摩マッサージ指圧師、柔道整復師の治療を取り扱っています。厚生労働省はこれらの医療資格者の治療について、健康保険においてどのような場合に受診をみとめるか、治療費用をいくらに設定するかなど、すべて厚生労働省通知として決めています。

柔道整復師が営業する「整骨院」は、保険医療機関の診療と同じように、健康保険証を示せば受診できる取扱いにしています。
したがって、鍼灸師が営業する「鍼灸治療院」もあん摩マッサージ指圧師の営業する「マッサージ治療院」なども、健康保険証を示して受診できる取扱いにすることは何の問題もないはずです。

患者が必要とする治療を自ら選べる自己決定が医療の基本です。厚生労働省が通知で行う行政指導も、医療を選ぶ患者の権利を尊重し、国民に平等、公平であるべきです。
以下の内容を含む厚生労働省通知の変更で改善できます。
・患者が必要とする場合には、はり・灸治療及びあんま・マッサージ・指圧治療が、医療機関と同様に保険証の提示で保険治療として受けられるようにして下さい。
・医師の診断治療を受けながら、はり・きゅう治療を受診できるようにして下さい

医療費削減は可能ですか?

はり・灸治療や按摩・マッサージ・指圧治療の普及により医療費は少なくなるのでしょうか?

予防医療を得意とする東洋医療の活用により国民一人ひとりにかかる医療費が減少するのは明らかです。
政府が繰り返し問題にする医療費削減は、国の医療費予算の削減であり、健康保険料の値上げや患者負担の増加、あるいは健康保険による診療の縮小など国民、患者の負担による医療費削減です。
日本は世界でも有数の薬消費国であり、薬害の問題が繰り返し論じられています。また、健康保険における薬の値段も検査機器の価格も高い、高薬価、高医療機器の国となっています。このような問題が放置されたまま国民負担が求められているのです。不必要な医療費の是正は真剣に取り組むべきだと思いますが、国民の医療を充実させるために必要な予算の削減は許されません。
現代の医療は技術進歩とともに高価となり、庶民の手が届かないごく一部の人々の医療とならないように注意が必要です。自然治癒力の強化、体質改善の強化という、現代医療とは異なる医療の基本を持つ東洋医療の活用は、国民すべての人々の医療の充実につながり、医療費の縮小につながります。

東洋医療を活用するためにはなにが問題ですか?

東洋医療の活用は国の取り組みの強化にかかっています。
なにより重要な事は、健康保険制度ではり・灸やあん摩・マッサージ・指圧の治療が健康保険で利用できる医療とすることです。また、医師が東洋医療を学ぶ学部をつくり、東洋医療を学び研究する医師を養成する必要があります。さらに、鍼灸師や按摩マッサージ指圧師の専門学校の内容を充実させるなど、国の取り組みの根本的改善が必要です。

日本にある80の医学大学のなかで東洋医療を体系的に学ぶための学科はありません。これでは東洋医療の普及をはかることはできません。
明治政府の時代、富国強兵の国づくり方針に基づき、軍事医学、社会衛生医学として優れていたドイツ(プロシア)医学を取り入れました。一方、本質的に個々人の臨床医術であった東洋医療は、内科的には西洋医療にまさる医学でしたが、こうした事実を無視して東洋医療を医療制度から排斥しましたが、未だにこの基本が変っていないのです。
はり・灸治療を行う鍼灸師は、3年間の教育を受ける専門学校、あるいは、4年間の教育を受ける鍼灸専門大学の教育を終了し、国家試験で鍼灸師の免許を取得すると治療を行うことができます。しかし、政府がはり・灸治療を健康保険制度から締め出しているために、健康保険による治療は受けられませんし、病院や診療所では、はり・灸治療を取り入れることができません。
国民の要望に応えようと、漢方外来、鍼灸外来など漢方やはり・灸を取り入れる病院や診療所がでてきましたが、健康保険の診療とは切り離した患者負担の自費の診療です。

海外でも鍼治療が普及しているようですが実情はどうでしょう?

韓国
韓国には、中国から伝わり発展した自国の伝統医療を行う韓医師の制度があります。「韓医大学は現在11校である。そのうち3 校は韓医学のみの専門校であるが,8 校は西洋医学も統合した医療の教育を施行している。大学卒業生は年間800人以上おり, 1 万2,000人の韓医が100の病院と7,000の韓医院で診療を行っている。」
(MedkalTribune 2008年3月27日より、広瀬輝夫 日本医療経営学会理事長)

中国
「中国には医師免許の種類が24種類もあるのだ。代表的な医師免許は西洋医と中医であるが、中国では少数民族の伝統医学についても国家資格を設けて一定の医療水準を確保している。例えば、チベット医学の医師資格やウイグル医学の医師資格が存在するのである。それぞれ全く別々の知識に基づいて治療を行っているのかと言うと、そうでもない。例えば医師資格試験の資料を見ると、伝統医学の医師資格を取得するには、伝統医学の知識に加えて、伝染病学の知識が要求されている。伝染病に関しては西洋医学的な知見が共有されているのだ。また中医の大学病院では、血液検査、画像診断、西洋薬の投与など、西洋医学的な治療手法が幅広く取り入れられている。」(中国新聞社 週刊 中国 平成24年3月5日)

アメリカ
カルフォルニア洲バークレーにはりの統合医療の専門職の大学院がありますが、4年制大学を卒業した人がはりのライセンスを取りに来る学校です。私はここの理事長をやっておりますけれども、今、200人ぐらい白人が学びにきています。そこの患者さんの例ですが、痛みが圧倒的に多いのです。これは97年のNIH(アメリカ国立衛生研究所)の影響だと思います。あとは健康維持・QOL、ストレス、疲労感、うつ、依存症、呼吸器の疾患や消化器・循環器というような、まさしく、今、日本ではいろいろ問題になっているようなものに対して、アメリカの人たちは積極的にはり治療を受けています。その背景には、高齢化社会、疾病構造、難治性疾患などがあると思いますが、満足する医療、自然医療、予防医学、それから医療費の高騰、サイエンスとしての医療からケアとしての医療へとシフトを望んでいるということではないかと思います。(「漢方・鍼灸を活用した日本型医療の創生のための調査研究」第1回班会議においての学校法人後藤学園理事長後藤修司氏の発言)

ドイツ
鍼治療に関して、ここ5年以内の間に、ドイツが非常にお金をかけて、大規模な臨床研究を行っております。これは切羽詰まった理由がございまして、日本と同じように、ドイツという
のは超高齢化社会に突入しつつありまして、それで、医療費も増大しているということがあって、また、人口1,000人当たりの医者の数が日本の1.5倍くらいで、ドクターの数も多いとい
うことで、非常にお医者さんの中でも患者さんの取り合いをしているような状況もございます。
それで、鍼治療はドイツにおいては国民の3割くらいが利用しているという統計データもございまして、非常に人気の高い、ニーズの高い補完代替医療の1つですけれども、1990年代にドイツでは鍼治療を全面的に健康保険の適用にしていたわけです。そうしましたら、非常に莫大な医療費が鍼治療に投入されるということになりまして、それで、ドイツの厚労省に相当するようなところと、それから健康保険の団体、企業の組合が、合同で大規模な臨床研究を企画したという経緯がございます。要するに、本当にエビデンスがあるのであれば健康保険の適用にしよう、見直しをしようということです。
それで、5年ほど前から非常に大規模に、一番規模の大きい試験は50万人の被験者の方に、これは電話などの聞き取り調査ですけれども、鍼治療の効果を確かめるような試験など、非常に質の高い、あるいは規模の大きい研究をやっております。その結果、鍼治療で複数の症状に対して有意な効果があるということがわかってきまして、それを、昨年の春、もう一度、エビデンスがあるから健康保険の適用にしようとしたという経緯がございます。海外でも随分ちゃんとした臨床研究が行われてきているという現状がございます。
(「漢方・鍼灸を活用した日本型医療の創生のための調査研究」第2回班会議での東北大学医学系研究科先進漢方治療医学講座の関隆志氏の発言)

フランス
 2010.05.14 Friday(てんゆ堂 荻窪教会通り HPより転載)
フランスの鍼灸事情 2
 おはようございます。昨日、荻窪駅前のルミネのレストラン街の新店で、「スンドゥブ・チゲ」(辛い豆腐スープ)を頂きました。この季節は暑さ倍増!!
 さて、フランスで鍼灸の専門教育を行ってい鍼灸学院、鍼灸専門学校は10ヶ所で内3校がパリにあります。パリ・マルセイユ・リヨン・ニース・ストラスブールなど9カ所の8年制の、医科大学で鍼灸課程が開設されており、フランスの鍼灸教育は3年制。1年目は基礎教育で125時間の理論学習、25時間の指導教育を行い、実技では新旧の鍼法の基礎を学ぶようです。2年目は鍼灸学と疾病分類学で75時間の理論学習、25時間の指導教育、50時間の実践教育を行い、実技では診断方法を主に学ぶようです。3年目は臨床と治療教育で90時間の理論学習、75時間の実習がR。実技では疾病分類と治療法を学び、その他に中国医学、藻類学、食療養生、生薬療法などから2科目を選択し、最後に修士論文です。
 鍼灸実習は医学院の付属病院など25カ所の病院などで行なわれるようです。フランスでも「中医学:TCM」でのカリキュラムで、鍼灸教育されています。学校を卒業し「フランス鍼灸資格認定試験」に合格し、資格証書を取得すれば、登録手続きをして診療を行う事が可能となります。しかし、どうやら脱落者が多いのかやたら難しいのが解りませんが、3人中1人くらいが終わりまでいく程度で、1年間に100人に満たない、鍼医師しか誕生しないようだという話もR。2008年からは、TCM教育と治療効果を全面的に高める為に、指定の大学で鍼灸の国家資格を与える事とし、学習期間は2年の予定で始まっています。現在、フランスでは前記したように鍼灸専門学校が10ヶ所、鍼灸・中医研究所が18ヶ所,鍼灸関連雑誌は6誌と拡大の一途にあり、フランス政府は「鍼灸専門委員会」も設立させています。

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